〇とらの涙
とらは実習初日から一緒で実習期間も一緒だったので、一番仲良くなりました。私たちがその年度の初めての実習生だったのですが、とらはいつも笑顔で、後から来た実習生たちに清掃の手順を教えたり、昼休みの時間にトークを回しながら場を盛り上げてくれる優しい男でした。
成績も優秀で、先生たちとの関係も良好。非の打ちどころのないほど完璧な男でした。
そんなとらが涙を流した日があります。それは実習最終週の症例発表日のことです。
症例発表は12時ごろからで、私は担当患者の食事評価があったため内容は聞いていませんでしたが、今までともに実習を過ごしてきた感じからして、きっちりまとまった発表をするだろうと思っていました。
食事評価が終わり、昼食をとるためリハビリ室に戻ると涙で目を腫らしたとらがいました。
ひろ「とら、どうしたの?症例発表で何かあった?」
とら「うん。ただ、怒られたりしたわけではないよ」
ひろ「そうなんだ。なにか納得できないことがあった?」
とら「めちゃくちゃ悔しくてさ。もっとできただろうと思って。自分が情けなくて。」
彼の涙は、症例発表で自分の実力を十分に発揮することができなかったことに対する悔し涙でした。
あとで、先生たちに聞いたのですが、彼の症例発表は学生の中ではトップクラスにいい発表だったとのことです。それでも、とらの中では納得できなかったようです。
現在、彼は大学院に進み、研究を中心に活躍していると風のうわさで聞きました。ストイックで誰にでも優しく接することのできる彼と実習でともに過ごせたことは私にとっていい思い出です。
Comments